「ロシア語を勉強しているけど、全然上達しない…」
あなたもそう感じていますか?キリル文字を覚えて、格変化を暗記して、動詞の体を理解しようと必死に努力しているのに、ロシア語が一向に身につかない。むしろ勉強すればするほど、その複雑さに圧倒されて、「やっぱりロシア語は難しすぎる」と感じてしまう。
でも、ちょっと待ってください。
実は、ロシア語が難しいと感じるのは、あなたの能力の問題ではありません。そして、ロシア語という言語が特別に複雑だからでもありません。本当の原因は、もっと根本的なところにあるのです。
なぜ文法を勉強してもロシア語が話せないのか
多くの日本人がロシア語学習で最初にぶつかる壁、それはキリル文字です。「АБВГДЕЁЖЗИЙКЛМНОПРСТУФХЦЧШЩЪЫЬЭЮЯ」という33文字を見て、「こんなの覚えられない」と思った人も多いはずです。
でも、実はキリル文字はロシア語の難しさの本質ではありません。なぜなら、キリル文字は単なる記号だからです。日本人だって、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字という複数の文字体系を使いこなしています。文字を覚えること自体は、時間をかければ誰にでもできることなのです。
次に立ちはだかるのが、格変化です。ロシア語には主格、生格、与格、対格、造格、前置格という6つの格があり、名詞や形容詞がそれぞれの格に応じて変化します。これを見て、「こんなに複雑な文法、覚えられるわけがない」と感じるのは当然です。
さらに、動詞の体という概念もあります。完了体と不完了体の使い分けを、多くの学習者が「ロシア語の最大の難関」と感じています。
でも、考えてみてください。
ロシアの子どもたちは、格変化の表を暗記したり、動詞の体の使い分けを文法書で勉強したりしているのでしょうか?答えはノーです。彼らは文法を勉強せずに、自然とロシア語を話せるようになります。
つまり、文法や格変化を必死に暗記する勉強法は、ロシア語習得の本質からズレているのです。
多くの教材やスクールは、「まず文法を理解しましょう」「格変化の表を覚えましょう」と教えます。確かに、読み書きをする上では文法知識は役立ちます。しかし、ロシア語を「話す」「聴く」という点においては、文法を意識することがむしろ障害となります。
なぜなら、会話は生き物だからです。相手の話すスピードに合わせて、瞬時に理解し、反応する必要があります。その時、頭の中で格変化の表を思い出している余裕はないのです。
ロシア語が難しいと感じる本当の理由
では、なぜ日本人はロシア語を難しいと感じるのでしょうか?
その答えは、「音」にあります。
認知神経科学学会のシンポジウムで発表された『脳科学から見た効果的多言語習得のコツ』という研究があります。この研究では、バイリンガルとノンバイリンガルの脳活動に決定的な違いがあることが明らかになりました。
バイリンガルの人は、日本語を聴いている時と外国語を聴いている時で、脳の異なる部分が活動しています。つまり、それぞれの言語に対応した「専用の回路」が脳の中にできているのです。
一方、外国語を話せない人は、外国語を聴いている時も、日本語と同じ脳の部分を使っています。これは何を意味するのでしょうか?
それは、外国語を「日本語フィルター」を通して処理しているということです。ロシア語の音を聴いても、それを日本語の音に置き換えて理解しようとしてしまうのです。
ここに、ロシア語学習の最大の落とし穴があります。
日本語とロシア語は、使用する周波数帯が全く異なる言語です。言語学では、各言語が優先的に使用する周波数帯のことを「パスバンド」と呼びます。
日本語のパスバンドは125Hz~1,500Hzという比較的狭い範囲です。一方、ロシア語のパスバンドは125Hz~8,000Hzと、日本語よりもはるかに広い周波数帯に及んでいます。
これは、ピアノの鍵盤で例えるとわかりやすいです。日本語は「ド」から「ミ」くらいまでの音域で会話をしているようなものです。一方、ロシア語は「ド」から一オクターブ上の「ド」まで、ピアノの鍵盤全体を使って会話をしているのです。
日本語の音域に慣れた耳で、ロシア語の広い音域をカバーしようとしても、高い周波数帯の音が「聞こえない」のです。聞こえないから、発音もできない。発音できないから、会話もできない。この悪循環が、「ロシア語は難しい」という印象を生み出しています。
さらに、マサチューセッツ大学と東京大学の共同研究では、興味深い事実が明らかになっています。それは、英語の音声だけを聞くよりも、多様な言語の音声に触れることで、日本人でも新しい言語を柔軟に習得できるようになるということです。
つまり、ロシア語を習得したいなら、ロシア語だけを聴くのではなく、様々な言語の音に触れることで、脳が幅広い周波数帯を処理できるようになるのです。
ロシア語の「音色」を味わう
ロシア語が難しいと感じるもう一つの理由は、ロシア語特有の「音色」を捉えられていないことにあります。
多くの語学書には、「日本語にある音」と「日本語にはない音」という表現があります。でも、これは大きな誤解です。
日本語の「あ」とロシア語の「а」は、文字としては同じ母音を表していますが、音としては全く別物なのです。これは、ギターで弾いたラ音とヴァイオリンで弾いたラ音が「同じ音」ではないのと同じことです。音の高さは同じでも、音色が違えば、それは別の音なのです。
ロシア語には、ロシア語特有の「音色」があります。その音色は、ロシア語のパスバンドによって決まります。パスバンドとは、人間の背骨(脊椎)を構成する椎骨に対応しています。響く骨の位置が異なれば、当然、音色(声色)にも違いが出てきます。
ですから、ロシア語を習得する第一歩は、ロシア語の「音色」を味わい尽くすことなのです。
子どもの言語習得プロセスを思い出してください。赤ちゃんは、文法を勉強する前に、まず音を聴きます。お母さんやお父さんの話す声を、何千回、何万回と聴きながら、その言語の「音色」を脳に刻み込んでいくのです。
そして、ある瞬間を境に、言葉が口をついて出るようになります。文法の規則を教えられたわけでもないのに、正しい文法で話します。なぜなら、膨大な音のインプットによって、脳の中にその言語の「回路」ができあがっているからです。
ロシア語を習得する場合も、同じプロセスが必要なのです。
まず、ロシア語の音を、ロシア語の音色として聴く。日本語フィルターを通さずに、ロシア語をロシア語として聴く。この積み重ねによって、脳の中にロシア語の回路ができあがります。
そのためには、ロシア語の音に大量に触れることが重要です。そして、ロシア語だけでなく、さまざまな言語の音に触れることで、脳が処理できる周波数の幅が広がります。すると、ロシア語の高い周波数帯の音も、自然と聴き取れるようになるのです。
これは、音楽のトレーニングに似ています。最初は音痴だった人も、様々な音楽を聴き、歌う練習を繰り返すことで、音感が養われていきます。言語も同じです。様々な言語の音に触れることで、「言語の音感」が養われるのです。
格変化や動詞の体といった文法は、音の回路ができあがった後で学ぶべきものです。音の土台がない状態で文法を学んでも、それは砂の上に家を建てるようなものです。
まず音の土台を作る。その上に文法や語彙を積み重ねていく。この順序が、ロシア語習得の鍵なのです。
あなたのロシア語学習は変わる
ロシア語は難しい。これは、多くの日本人が感じていることです。でも、その難しさの本質は、ロシア語という言語の複雑さにあるのではありません。
本質は、日本語とロシア語のパスバンドの違いにあります。そして、日本語フィルターを通してロシア語を処理しようとする、私たちの脳の使い方にあります。
この本質を理解すれば、ロシア語学習のアプローチは全く変わります。
文法書を開く前に、まずロシア語の音を聴きましょう。そして、様々な言語の音に触れて、脳の周波数処理能力を高めましょう。
ロシア語の音色を味わい、ロシア語の音の世界に深く入っていく。この体験こそが、ロシア語習得の第一歩なのです。
あなたは、ロシア語を習得できます。なぜなら、ロシアの子どもたちが全員ロシア語を話せるように、人間の脳には言語を習得する力が備わっているからです。
必要なのは、正しいアプローチです。音から始める。この原則を忘れずに、ロシア語学習を続けてください。あなたのロシア語は、必ず変わります。
