おすすめの英語教材に取り組む前に知るべき「音の真実」

英語を学んだことがある日本人なら、一度は「これかな?」と思えるような英語教材を探した経験があるはずです。

本屋の語学書コーナーやネットで英語教材を探すと、文法書、単語帳、リスニング教材、会話集などが並びます。中には『これさえ使えば英語が話せる』といった表現を掲げるものも少なくありません。

でも、心のどこかで、こんなことを感じていませんか。

「また同じ失敗を繰り返すんじゃないか。」

実は、多くの日本人がこれと同じ間違いを何度も犯しています。そして、その間違いに気づかないまま、何年も時間とお金を無駄にしてしまっているのです。

今日お伝えするのは、英語教材を選ぶ「前に」知っておくべき、英語習得の本質的な話です。

目次

「良い教材」を延々と探し続けるサイクル

「今度こそ!」と新しい教材を買う。最初の数週間は張り切って勉強する。でも気づけば、また本棚の奥にしまわれてしまう。

そんな経験を繰り返したことはありませんか?

これは教材が悪いからではありません。あなたの努力が足りないからでもありません。

本当の原因は、どんな教材を使っても、根本的な「土台」ができていなければ英語は身につかないという事実にあります。

じゃあ、その「土台」とは何なのか。

英語教材で身につくものと身につかないもの

英語教材には、知識を身につけるものと、英語の音に触れることを目的としたものがあります。

文法書や単語帳は前者にあたり、リスニング教材などは後者に分類されます。

一方で、会話フレーズ集のように “文字情報が中心で、音声はオプション扱いの教材” も少なくありません。

どの種類の教材にも共通する課題があります。

それは、英語の音が「そもそも多くの日本人の耳に届いていない」という点です。

多くの教材は「英語の音を聴き取る」ことを甘く考えすぎています。

しかし実際には、多くの日本人の脳では、英語の音の多くが“雑音”として処理されてしまっており、これを解消するには相当な時間と忍耐が必要です。

この事実が無視されている状態では、どれほど丁寧に作られた教材でも、本来の効果を発揮しにくいのです。

なぜ英語の音が「聞こえない」のか

脳には言語ごとの「チャンネル」がある

各言語には、使われる音の優先周波数帯があります。言語学では、これを「パスバンド」と呼びます。


日本語のパスバンドは約125Hz〜1,500Hzです。一方、イギリス英語のパスバンドは2,000Hz以上の高い周波数帯に及びます。

つまり、日本語とイギリス英語では、使われる音の範囲がまったく重なっておらず、日本語とアメリカ英語でも、重なっている範囲はごく僅かです。

日本語の環境で育った私たちの脳は、125Hz〜1,500Hzの音だけを「言語」として認識し、それ以外の音を「エアコンの音」や「風の音」と同じ雑音としてカットするフィルターを持っています。

これが「英語の音が聞こえない」という現象の正体です。

バイリンガルとノンバイリンガルの脳の違い

日本医学英語教育学会の名誉理事長を務める脳神経外科医が行った研究で、衝撃的な事実が明らかになりました。

英語を自然に使える人と使えない人では、脳の使い方が根本的に異なっていることが分かっています。

英語が使える人は、日本語を聴いている時と英語を聴いている時で、脳の中の「別々の場所」が動いています。つまり、英語と日本語で、脳を使い分けているのです。

一方、英語が使えない人は、英語を聴いている時も日本語と「同じ場所」しか使っていませんでした。

これは何を意味するのか。英語の音が耳に入っていても、脳がそれを日本語と同じ音として処理しようとしているということです。英語特有の音の「情報」が、脳に届く前に途中で消えてしまっているのです。

英語教材で上達しない3つのパターン

パターン1:英語の音だけを大量に聴く

英語のポッドキャストやYouTubeを毎日時間を割いて聴く。これは非常に一般的なアプローチです。

でも、日本語フィルターが強固に残っている状態では、英語の音の多くが「意味のないノイズ」として処理されてしまいます。

英語だけを聴き続けても、脳の「音を処理するチャンネル」は変わらないのです。

パターン2:文法や単語を完璧に覚える

文法規則を理解し、単語を暗記する。多くの英語教材が推奨する方法です。

でも、脳が英語の音を正しく受け取れていない状態で、いくら知識を詰め込んでも、実際の会話では言葉が出てこない。

知識と「生きた音」の間に、大きな断絶があるのです。

パターン3:ネイティブと会話練習をする

英語を使う目的は人それぞれです。会話を楽しみたい人もいれば、映画やドラマを理解できれば十分という人もいます。

ただし、どんな目的であっても、“生きた英語の音”が脳に入っていない段階で会話練習を始めても、うまく積み重なっていきません。

英語の音を受け取る土台ができていないままアウトプットを強制するのは、空っぽの財布からお金を取り出そうとするようなものです。

まずは、英語の音を正しく受け取れる状態をつくること。

それが整えば、必要な場面で自然に言葉が出てくるようになります。

脳科学が示す「土台の作り方」

マサチューセッツ大学と東京大学の共同研究で、興味深い結果が報告されています。

英語だけを聴くグループと、英語に加えて“さまざまな言語の音”を聴くグループを比べたところ、後者の方が英語の音をより正確に聴き取れるようになっていたのです。

なぜ、英語以外の言語の音が英語習得に役立つのか。

理由はシンプルです。言語ごとに優先周波数帯域(パスバンド)が異なるため、多様な音に触れることで、脳が「日本語だけでは処理しきれない音の範囲がある」と認識し、閉じていたフィルターを少しずつ開いていくのです。

長いあいだ閉ざされていた窓をゆっくり開けていくようなイメージです。

子どもが勉強せずに母語を習得する秘密

あなたは日本語を話すために、文法を勉強したり、単語帳の単語を暗記したりしたでしょうか?

答えは「いいえ」のはずです。

子どもは教材を使わず、日常の中で自然に母語を身につけていきます。

生まれてから、周囲の大人が交わす言葉を長い時間かけて聴くことで、その言語特有の“音の感覚”が脳に蓄積されていくのです。

そしてある時期を境に、言葉が自然と口をついて出るようになります。文法を教わったわけでもないのに正しい文で話せるのは、膨大な音のインプットによって、脳の中に“その言語の回路”が形成されているからです。

英語習得にも、この根本的なプロセスが欠かせません。

英語教材を「使える」ようになるためには

英語教材が本来の力を発揮するのは、あなたの脳に“英語を受け取る土台”ができてからです。

逆に言えば、その土台さえ整えば、どんな教材でも効果的に活用できるようになります。

つまり、今やるべきことは新しい教材探しではありません。

まずは、脳の中に「英語を処理する回路」をつくることです。

そのためには、英語だけでなく、さまざまな言語の音に触れ、脳が扱える音の幅を広げていくのが有効です。

これは“勉強”というより、子どもが母語を身につけたときと同じように、音に浸る体験を通じて自然に土台が育っていくプロセスです。

この土台ができると、英語教材を開いたときに感じていた“壁”がすっと薄れていきます。

これまで難しく感じていた文法や単語が、驚くほどスムーズに理解できるようになるのです。

なぜなら、あなたの脳にはすでに“英語の音を正しく受け取る回路”が備わっているからです。

まとめ:英語教材に取り組む前に

英語教材そのものが悪いわけではありません。ただし、“土台がない状態で使っても効果が出にくい”という現実があります。

英語教材を入手する前に、まずは英語の音がしっかり聞こえるようになるための「土台づくり」を知ること。

一見遠回りに見えて、実はこれが英語習得への近道になります。

英語だけでなく、世界のさまざまな言語の音に触れ、脳が扱える音の幅を広げる。それが、あなたの英語習得を大きく変える第一歩になるのです。

この記事を書いた人

20代半ば頃から様々な言語に触れて、勉強するも思うように身につかず、思うように話せない経験を繰り返す。しかしある時、約4万時間に及ぶリスニングと、約2万時間に及ぶ音読を実践する中で、語学習得のヒントは子どもの言語習得過程にあると気づく。その後、自身で試行錯誤を繰り返し、第3の言語習得メソッドを開発。現在は「おとなのためのマルチリンガル講座」の講師を務め、多言語を学びたい多くの人たちに自身のメソッドを教えている。

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