先日、埼玉県に住む生徒さんに フランス語のレッスンをしました。 ちなみに、この生徒さんは フランス語の初心者です。 フランス語の発音と綴りの関係は、 英語に比べると規則的です。 しかしまだフランス語の音声を量・質 ともに十分に聴き込んでいない人が、 「基本的に語末の子音は読まない」 というルールやリエゾンの規則を 知らないと、文字に「釣られて」、、 つまり惑わされてしまいます。 les voitures(それらの車)の 「les」も「voitures」も 語末のsは読まないはずなのに /lez vwa.tyʁz/ と言ったり、 Nous avons un chat. (私たちは猫を一匹飼っています。) の最初の二語はリエゾンするのに、 /nu a.vɔ̃ ɛ̃ ʃa/ と言ったりという具合に… 脳に蓄積された聴覚記憶の 絶対量が不足していると、、 文字を見たときに各自が勝手に、 その文字に対して頭の中で抱く イメージに沿って 「音を創作」してしまいます。 ところが聴覚記憶がしっかりしていると、 たとえその言語の発音と 綴りの関係が複雑であっても、 文字に惑わされなくなります。 日本語を表記する文字の 代表格である“ひらがな”は 表音文字ですが、 常に書かれている通りに 発音するわけではありません。 例えば…「わたしは会社員です。」 という文を、書かれている通りに読むと、 「わたしは」の「は」は、 「歯車」の「歯」になるはずですが、 普通の日本人だったら 「わたしわ会社員です。」と言います。 桜田淳子の大ヒット曲 『わたしの青い鳥』の歌詞の冒頭部分 「ようこそここへ クック クック わたしの青い鳥」 における「ここへ」の「へ」を 「屁理屈」の「屁」のように読む 日本人もまあ、いないでしょう。 それでは、なぜ文字に釣られて 「わたし歯」とか「ようこそここ屁」と 読んでしまうことがないのでしょうか? それは、そのような喋り方や 歌い方をする人に 出会ったことがないからです。 すなわち、私たち日本人の脳の中にある 日本語の音のデータベースの中に そのような不自然な音の連なりが 存在しないからなのです。 ひらがなを習い始めたばかりの頃は、 主題助詞の「は」は 例外的に「わ」と読む、 方向助詞の「へ」は 例外的に「え」と読む、 という規則を知って一抹の違和感を 覚えたかもしれません。 ですが、聴覚記憶のパワーの方が 圧倒的に強いので、文字に惑わされて 「歯」や「屁」のように発音することは すぐになくなります。 「そういうことなのね!」と言う場合も、 「う」を「あいうえお」の 「う」のように、 「い」を「あいうえお」の 「い」のように、 はっきりと発音する人は皆無でしょう。 実際の発音は「そーゆーことなのね!」に 近いと思いますが、このように綴ると、 なぜか、頭の悪い人、 あるいは教養のない人と 見なされてしまいます。 不思議ですね。笑 何はともあれ、表音文字で表記される 多くの言語において、 このような発音と綴りの不一致は 付き物です。 なので語学習得を志す人は 「あくまでも音が主役! 文字は脇役だけど、 大いに参考になるよね……」 ぐらいのスタンスで臨むのが ベストだと思います。 最後までお読みいただき、 ありがとうございます。 |
文字は曲者
