ナンシー

今回は、
僕の知人が中学生だった頃の
話をご紹介します。

当時にしては珍しく
英語の教科書の本文を、

アメリカ人が読み上げた音声を
収録したカセットテープが
クラス全員に配られたそうです。

残念ながら僕が
通っていた中学校では、

最初からテキストオンリーの
授業でしたが、

それでも多くの同級生が、
中学生という多感な年頃になって
初めて触れる外国語=英語に、

新鮮な驚きと興味を
感じていたようです。

もっともそのような新鮮な感覚は、

・無味乾燥な例文の暗記強要
・いじめとしか思えない
 テストの引っかけ問題
・常に他人と優劣を
 競い合わなければいけない環境

などによって、
早々に消え失せていくわけですが……

さて僕の知人の話に戻ります。

どのクラスにも一人や二人
お調子者がいるわけですが、
彼のクラスも例外ではありませんでした。

アメリカ人が吹き込んだ音声の中に
Hi, Nancy! (やあ、ナンシー!)
という台詞がありました。

ある一人の男子生徒にとって、
Nancy(/nænsi/)という響きが
余程面白かったのか、

彼は
「なんかこれ、とろくね?
 はーい、ナンシーって。」
と言うや否や、

「ハーイ、ナァ~ンシー!
 ハーイ、ナァアンンシィ~!
 ハーーーイ、
 ナァアアンシィイイイ~!」

と真似し始めました。

ちなみに「とろい」は名古屋弁で、
「動作や反応が遅い、鈍い」
「物事の進め方が下手であるさま」
を表します。

「とれぇ」や「と~ろい」という
バージョンもあります。

頭に「ど」を付けると
「どっとろい」とか「どっとれぇ」という
強調形の出来上がりです。

つまり、

・英語の very
・ドイツ語の sehr
・フランス語の très

などの役割を果たす語が
名古屋弁では「ど」だと
お考えいただければよいかと思います。

話が脱線してしまいました。
すみません。

その男子生徒のふざけた態度に
呆れた女子生徒が先生に、

「あいつ、真面目に勉強しないで、
 さっきからナンシー、ナンシーって……
  どうしようもないよね。」

と苦言を呈しました。

そうしたらなんと、
その先生は真顔で冷静に一言

「そういう子は、英語上手くなるよ!」

僕が通っていた中学校の先生だったら、
「おい、ふざけてないで
 真面目に勉強しろ!」

と男子生徒を叱責したに
違いありません。

「音と遊ぶ」という言語習得の基本を
理解していらっしゃるその先生、
本当に素敵だなと思いました。

この記事を書いた人

20代半ば頃から様々な言語に触れて、勉強するも思うように身につかず、思うように話せない経験を繰り返す。しかしある時、約4万時間に及ぶリスニングと、約2万時間に及ぶ音読を実践する中で、語学習得のヒントは子どもの言語習得過程にあると気づく。その後、自身で試行錯誤を繰り返し、第3の言語習得メソッドを開発。現在は「おとなのためのマルチリンガル講座」の講師を務め、多言語を学びたい多くの人たちに自身のメソッドを教えている。

目次