「どのくらいの時間勉強すれば話せるようになるのか」を気にしているあなたへ
ドイツ語を学んでいる方に多い疑問の一つが、「一体どのくらいの勉強時間があればドイツ語が使えるようになるのか」というものです。
インターネットで調べると、「最低1,000時間」「2,000時間は必要」といった数字がたくさん並んでいます。それを見て「やっぱり大変だな」と感じた方も多いのではないでしょうか。
ただ、正直に言うと、「勉強時間の目安」という視点そのものに、大きな問題があります。今からその理由を具体的にお伝えします。
まず「勉強時間の目安」について正直に話します
確かに、アメリカ外交官研修所(DLI)の研究では、日本語話者がドイツ語を習得するのに「約750〜900時間」という時間の目安が示されています。これは事実です。
しかし現実には、この目安よりもはるかに早く習得できる人がいます。一方で、何年勉強しても一向に上達しないという人もいます。なぜこれほどの差が生まれるのでしょうか。
答えはシンプルです。「適切な方法で学んでいるかどうか」、ただそれだけの違いです。
適切な方法で学んでいる人は、750〜900時間という目安を大きく下回るペースで習得できます。逆に、方法がズレたまま時間だけを積み重ねても、目安の時間を超えてもなかなか使えるようにならない、という状況に陥ります。
そして残念ながら、「適切な方法」で学んでいる人は非常に少ないのが現状です。なぜなら、多くの日本人がドイツ語を学ぶ際に取る方法は、脳科学的な視点から見ると根本的にズレているからです。今からそのズレの正体を、具体的にお伝えします。
なぜ勉強時間を費やしても上達しないのか
ズレの正体➀:「時間をかければ、やがて聴き取れるようになる」という前提
「毎日30分でも続ければ、そのうち耳がドイツ語に慣れる」と信じている人がたくさんいます。しかし、時間を積み重ねるだけで耳が変わることはありません。
なぜかというと、あなたの脳は日本語の音だけを優先的に処理するようになっているからです。日本語とドイツ語では、使われる音の優先周波数帯が根本的に異なります。
日本語の脳でドイツ語の音を聴こうとする状態は、チューニングが合っていないラジオで聴こうとするのと同じです。いくらボリュームを上げても、いくら時間をかけても、チャンネルが合わなければクリアな音は聞こえません。
ズレの正体②:「文法と単語を覚えれば、勉強時間の分だけ上達する」という思い込み
勉強時間を長くすれば、その分だけ文法や単語が頭に入るはずだと多くの人が考えています。確かに、読み書きの面では時間をかければ語彙や文法項目の数は増えます。
ただし、「ドイツ語を使う」ということは、読み書きとはまったく別の作業です。「話す」「聴く」という動作は、文法や単語の知識を引き出して組み立てるプロセスではなく、音そのものを感じ取り、音そのものとして返す、はるかに素早い動きです。どれだけ文法や単語を知っていても、その音が脳に正しく届いていなければ、使えるものにはなりません。
ズレの正体③:「勉強時間を確保すれば、自然と話せるようになる」という期待
「1年間、毎日1時間勉強すれば大丈夫だ」と自分を鼓舞しながら勉強を続けている人がいます。しかし、時間の問題ではないことが科学的に明らかになっています。
日本医学英語教育学会の名誉理事長を務める脳神経外科医が行った研究では、外国語を話せる人と話せない人では、脳の使い方に明らかな違いがあることが分かっています。
外国語を話せる人は、日本語を聴いているときと外国語を聴いているときで、脳の中の別々の場所が活動しています。一方、外国語を話せない人は、外国語を聴いていても日本語のときと同じ場所を使っていることが確認されました。
つまり、勉強時間の長さよりも、「脳の中に外国語の土台があるかどうか」の方がはるかに重要なのです。時間をかけても、この土台は勝手にできあがるものではありません。
脳科学が明かした「勉強時間では解決できない」本当の原因
ドイツ語と日本語の「パスバンド」の圧倒的な違い
各言語には、優先的に使われる音の周波数帯があります。これを「パスバンド」と呼びます。

日本語のパスバンドは約125Hz〜1,500Hzですが、ドイツ語のパスバンドは約100Hz〜3,000Hzと、日本語の約2倍の広さがあります。
これは何を意味するかというと、日本語を母語とする私たちの脳は、ドイツ語の音域の約半分しか処理する準備ができていないということです。
勉強時間がいくら長くても、脳がドイツ語の音域を受け取る仕組みが変わっていなければ、その半分の音しか届いていないまま勉強を続けることになります。これが「時間をかけても上達しない」という経験の根本的な理由です。
多言語に触れることで脳が変わる
マサチューセッツ大学と東京大学の共同研究で、興味深い事実が分かっています。英語の音声だけを聴くグループと、英語に加えてフランス語やドイツ語、中国語など複数の言語の音声を聴くグループを比較したところ、後者のグループがはるかに高い成果を出しました。
なぜ多言語を聴くことで効果が出るのかというと、さまざまな言語のパスバンドに触れることで、脳が「日本語以外の音域にも対応する」という柔軟さを取り戻すからです。日本語だけに最適化されていた脳が、新しい音域を認識する能力を再び開いていくのです。
「勉強時間の目安」の問いに、改めて答えます
「ドイツ語の勉強時間の目安は何時間ですか」という問いへの正直な答えは、以下の通りです。
「時間だけで見積もることはできません。なぜなら、勉強の根本にある仕組みが変わる必要があるからです。」
勉強時間が長いほど上達するというのは、適切な土台がある前提での話です。その土台とは何かというと、脳がドイツ語の音域を正しく受け取れる状態のことです。
この土台ができていなければ、いくら時間をかけても勉強は空回りし続けます。逆に、この土台がある状態であれば、文法や単語もはるかにスムーズに脳に入ることが実証されています。つまり、「勉強時間の目安」への正しい問いは「何時間勉強すればいいのか」ではなく、「どうやって脳の土台を作るのか」なのです。
子どもは勉強時間を費やさずに言葉を習得した
ここで、根本的な視点の切り替えが必要です。あなたは日本語を話せるようになるために、勉強をしましたか?答えは「いいえ」のはずです。
私たちは誰もが、勉強することなく、ただひたすら『あること』を繰り返すことで日本語を習得しました。その『あること』とは、周りにある音に身を浸し、その音の世界に入っていくことです。文法や単語を知る前に、まず『音』として言語に触れた。この順序がドイツ語習得にも当てはまります。

